
「空気」を主題として、透明なアクリル板に数千もの線を重ね、制作を続ける石川美奈子。私たちが生きる地球の不思議さや尊さを出発点に、「人間とは何か」「なぜ争いは生まれるのか」といった答えのない問いを抱えながら、揺れ動く思考を線と色彩へと昇華してきました。
本展では、「eye」シリーズの初の大判作品や、直線と曲線を新たに構成した「Wavelengths_variations」など、探究の深化がうかがえる作品が並びます。新たな表現へ向かう作家に、本展の背景や技法、今後の構想について伺いました。
石川美奈子 Minako Ishikawa
1974 岩手県盛岡市生まれ
1999 岩手大学大学院教育学研究科教科教育専攻美術教育専修修了
〈個展〉
tagboat Gallery (2017,2019,2021,2022,2023,2024/東京)
ギャラリーNew新九郎 (2020/小田原)
Gallery HIRAWATA (’16,’13,’11/藤沢)
Galleries F&F (’15/台北)
板室温泉 大黒屋サロン (’14’12,’10/那須塩原)
GALLERY TRINITY (’13’12,’11/東京)
西武渋谷店オルタナティブスペース (’11/東京)
リアスアーク美術館「N.E.blood21 Vol.11 石川美奈展」 (’04/気仙沼)
〈アートフェア〉
Art Kaohsiung 高雄、台湾 (’14,’15,’16)
〈受賞歴〉
2014 第9回タグボートアワード グランプリ
2010 YOUNG ARTIST JAPAN vol.3 準グランプリ
2005 岩手芸術祭現代美術部門 芸術祭賞(2003年)
2003 第22回今立現代美術紙展’03 特別賞
2001 キリンアートアワード2001 奨励賞
今回の個展では、どのようなテーマやコンセプトで展示を構成されましたか?
今ここに地球が存在し、その地球に私たちは存在しています。そのことだけで十分に奇跡的でありがたいことだと思うのですが、ニュースで見聞きすることは戦争や分断、環境破壊に関する事柄が多く、なぜ人は争うのか、人間とはなんだろう、人間らしいとはなんだろう、この地球上に生きるとはどういうことなのかと考えます。答えは出ない問いかもしれませんが、それでも、そのように問い続けながら、制作を続けるというステイトメント的な構成になったのではないかと思います。
今回、新しく試みた技法や表現手法について教えてください。
通常は台の上にアクリル板を寝かせて制作しているのですが、大きな作品を作ろうと思い、まず大きなアクリル板を立てるための壁面を用意し、その壁面にアクリル板を立てて制作しました。いつもは腕が台に支えられているので、安定して線を引くことが出来るのですが、おおよそ垂直に近い壁面に直線を引くのは今回が初めてで、腕がプルプルして安定せず線に震えが生じ、制作にいつもの何倍もの時間が掛かってしまいました。壁面での制作でも緊迫感のある安定した線が引けるよう、また挑戦したいと思っています。
その他には、これまで直線のみ、曲線のみという本当にシンプルな画面の作品を制作していましたが、直線と曲線を一つの画面に構成するという試みもしました。

今回の大作、168×168cmの大きな円のeyeシリーズはどのように生まれた作品ですか?
2025年に、このeyeシリーズが誕生しましたが、最初のころから私自身このシリーズの大きな作品を見てみたいと思っていました。そして、盛岡での個展の際に、先輩の作家の方から、「2Mくらいの大きいのが見たいよ」と言われたことも実際に作る決心につながったと思います。

直線と曲線、そしてグラデーションにおける色彩によって平面を構成するシリーズ「Wavelengths_variations」はどのように生まれたのでしょうか?
私の作品は空気がテーマなのですが、タイトルがWavelengthsであることからも、それは光と切っても切りはなせないものなので、改めて光の性質を考えてみようと思いました。光には、直進、反射、屈折という3つの基本的な性質があり、波と粒子という二重性を持ち、波としての性質には分散や回析、干渉があるということです。そのような光の性質に関わると思える動きを表現することで、描いてはいない何かが現れてこないかという試み、また、私の表現が線によるものであることから、幾何学的にどのようなバリエーションが可能かという試みをしようと思ったことで生まれました。

制作中、直線のみの時と、曲線や円を描く時では、ご自身の気持ちや姿勢に違いはありますか?
はい。曲線の制作は直線の制作の1.5~2倍の時間が掛かってしまい、技術的に難しいのですが、気持ちとしては、固くならず柔らかにということを意識して向き合っています。直線の方はその言葉の通り、気持ちも姿勢も真っすぐにその一本ごとの線に集中して作品に向き合っています。

これまでの人生や創作活動の中で、特に影響を受けた人物や作品はありますか?その理由も教えてください。
これまで本当にたくさんの人たちや自然、作品から多くの影響を受けてきましたが、今この質問を受けて頭に浮かんだのは、もの派の菅木志雄さんです。もう20年以上も昔のことになりますが、盛岡での菅先生の個展のお手伝いに呼んでいただいたことがあり、その時に初めてお会いしたのですが、とても気さくに話してくださる方で、ひょんなことからその後手紙のやり取りをさせていただいたことがあります。その中で、よく読書の大切さを話しておられ、初めに世阿弥の花伝書を勧めてくださいました。私は最初そんな難しそうな本は読めるのだろうかと思いましたが、図書館で借りて読んでみると、とても興味深く、面白く、一気に読んだことを今でも覚えています。それ以後、本を読むがとても遅い私ですが、常に読書は続けるようになりました。それ以外にも菅先生の制作に対する姿勢は私にとても大きなインパクトを与えるものでした。
普段はどのように”ご自身の感覚”を保っていますか?
自分の感覚を保とうと意識したことはないと思うのですが、このように質問されて思い浮かぶことは、赴くまま、という感覚で、日常の本当にささやかな事柄に心奪われ、それを楽しんでいるところはあると思います。
窓から見える早朝の空の淡いグラデーションやそこに淡く白く浮かぶ月、いろいろなところを歩きながら、日々の空、風、春先の沈丁花の香りや、草や木々の葉の緑の色のヴァリエーション、木の幹のうねりや枝の広がり、ハッカチョウの歩く様子、金木犀の小さなオレンジ色の花と香り、夜の空の深い青のヴァリエーション、などなど、そんな空気感を楽しんでいます。

鑑賞者の反応やコメントが制作に影響することはありますか?
はい。今回の大きな作品もその通りで、普段はそれがすぐに作品に影響を与えることは少ないと思うのですが、気になった言葉はふとした時に頭をよぎり、そのことについて考え作品につながることもありますし、考えていた作品の構成の変更につながることもあります。
今後の制作において挑戦したいことや意識したいことはありますか?
私にできることではないのですが、とても具体的に今回制作した大きな作品をゆっくりと回転する立体にし、それを複数個、ギャラリーの空間に展示したいという構想を持っています。いつか実現できる機会が訪れたらとてもうれしく思います。

2026年1月7日(水)からギャラリーにて個展「Wavelengths 2026」を開催いたします!
石川美奈子「Wavelengths 2026」
2026年1月7日(水) ~ 1月24日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日の1月7日(水)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:1月7日(水)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
石川美奈子個展「Wavelengths 2026」の展覧会情報はこちら